第三章 無礼からの実現
僕の人生を変えた人。
大嶋圭介さんだ。
この出会いから、400人の前で講演会を行い、
自分で書いた本を全国出版するとは、夢にも思わなかった。
『よおぉ!そらっ!元気そうだな!!』
『はい!元気です!』
この上なく普通の返しをしてしまったと後悔したが、そんなことはこの人の笑顔の前では帳消しになる。
『大嶋さんもお元気そうですね!』
『本日はお時間を頂戴いただき、ありがとうございます!』
就職活動の挨拶のような姿勢で話してしまうのが、自分の悪いところだ。
ただ野球部という社会にいた自分はこういう接し方しか知らない。
『んな硬いこというなよぉ!てゆうか、今日すごい人だね!あれかヨサコイソーラン祭りってやつでしょ!行く前に調べたけどここまですごいとな思わなかったよ!』
この人には常に笑顔だ。
というより、笑顔以外の表情が思い浮かばない。
そのくらい活力があり、生き生きし、若々しい。
大嶋さんが横にいる。それだけで現実では無いような気分になる。
あの時の自分はもやは自分では無い。
彼に心からお礼を言いたい。
よくやったと。
-------------------------------------
『人間の脳はいまある力の3万倍能力があるそうです!』
『だからね、できないことなんて無いんですよ!!』
『いま自分がやりたいこと、叶えたいことはなに?』
『みんなで大きな声で口に出してみよう!』
『せーの!』
『○△✖️⭐︎△⭐︎〜』
会場全体が震えるようにそれぞれの思いが響いた。
『はい!拍手ー!!👏 せーの、いいね👍』
これが毎回のお約束。
なぜかこれだけでマリオで言うスター状態になった気がする。
目の前で起きたことなど、大したことなんてないと思えてしまう。
『みんな、いま自分がやってることに鼻血出しながらやってるうぅ??』
『僕はね、毎日出まくりだよ!!』
『僕もともとメンタル豆腐だったの。だからね、誰よりもメンタルの勉強をして、いろんな人にまだできるよ!未来は明るいよ!って伝えてます!』
『みんなもなんでもできる力があるから、全力でやってみよう!!』
この時僕はいわゆるパラダイムシフトが起きた。
自分の中での大人とは、
毎日スーツを着て、電車に揺られながら会社へ行き、上司に叱られ、くたくたの状態で家に帰り、飯を食い、風呂に入り、ゴロゴロする。
そしてまた仕事へ行く。
ほとんどロボットと変わらない生活をしている生き物だった。
しかしいま目の前で話している人は違う。
明らかにオーラが違う。
身に纏っている雰囲気が違う。
プラスのエネルギーが半端じゃ無い。
この人の周りには、マイナスの雰囲気を持つ人は集まらないだろう。
そしてこの人を嫌いと言う人は間違いなくいない。
人に好かれようと生きてきたわけでは無いが、
嫌われることを恐れて生きてきた。
なんとなく周りに流れていたし、その方が楽だった。
だけど、いま自分の中で明らかに何かが変わろうとしている。
この人に近付きたい。
この人からもっと学びたい。
その想いだけだった。
講演会が終わると、サイン会に会場にいたほぼ全員が並んだ。
その中で自分はあえて一番後ろに並んだ。
お盆の高速道路の渋滞のようなものが少しずつ流れていき、自分の番になった。
『本日はありがとうございました!』
『うん!!!こちらこそきてくれてありがとうね!!お名前は?』
『空です!』
『おお!いい名前だ!思いっきり羽ばたいてやれ!』
『はい!ありがとうございます!!!』
『…あの、、すみません。』
『今度僕と一緒に講演会を開いてくれませんか?宜しくお願い致します。』
心臓が飛び出そうだった。いま思えばなぜあの時あの言葉が言えたのだろう。
恐ろしく失礼な話だ。
相手はプロ野球のメンタルコーチをやるような人だ。
実績、経験もなにも無い自分と一緒にやってくれるわけもない。
そもそも、僕は人前で話したことはほとんどない。
『わかった!やろう!』
『え、』
自分が頼んだにもかかわらず、了承いただけたことが意外過ぎて言葉が出なかった。
『おい!そら!!なにぼーとしてるんだ?!』
『ぇあ、すみません。ちょっと前のことを考えてました。』
『なんだよ!それ!いいことだけど今を生きようぜ!!もう楽しいことしか無いんだから!』
『そうですね!僕もいつのまにかその考えになってます!』
『いいね!!👍』
『ところで、もう1ヶ月後の講演会では、なにを話すんだ?!』
そう。もう1ヶ月後に迫った講演会。
そこでは自分と大嶋さんとの二部構成になっている。
大嶋さんが80分。自分が20分。
短いようで恐ろしく長い。
スピーチというのは、5分でも長い。
言葉が繋がらず、伝えたいことが伝えられない苦しみは学生時代痛いほど味わってきた。
『自分は、ものすごく個人的なことですが、』
『母のことを話したいと思ってます、』
『それがいいことか分かりませんが、
自分が世の中に訴えることができることは、母のことしか無いと思います。』
『ダメでしょうか。』
『んなわけあるかい!!』
大嶋さんが、僕の背中を強く叩いた。
そして、左腕を僕の左肩に乗っけて、こう言った。
『空にしか伝えられないことが絶対ある。
世の中とか、世間とか関係ない。』
『目の前の人になにを伝えたいか。』
『自分にとって一番大事なものをそのまま伝えるだけで大丈夫!後は想いだけだ!』
この人はなんて暖かいのだろう。
『ありがとうございます!』
『精一杯届けます。』
この出会いから、400人の前で講演会を行い、
自分で書いた本を全国出版するとは、夢にも思わなかった。
https://camp-fire.jp/projects/view/434340