第一章 シンソウの想い
『父さん、お願いがある!』
『俺、母さんに会ってみたい!』
1月の札幌は雪が降りしきり、ほうじ茶味の のかき氷色に染まった雪を沿道に浴びせながら車が通り過ぎていく季節。
空は広いコンサートホールの一席に座りながら、一点を眺めていた。見たこともない、いわゆる係長の様な風貌の男性がマイクを通じて、感情のこもっていない言葉を発している。
なんと言っているかはわからないが、特に聞き入る必要のない言葉であることは確かだ。
『皆様のますますの成長を祈念し、祝辞とさせていただきます。』
パチパチ👏
会場が愛想笑いに近い拍手をし、
係長風の男性は降段した。
『父さん、お願いがある!』
『俺、母さんに会ってみたい!』
成人式当日の朝にそう伝えた。
両親に離婚し
意識が芽生えた頃から母親はいなかった。
父親は愛情を目一杯注いで育ててくれた。
特に不幸などを感じることは無かった。
無い物は不幸とは感じない。
元々あったものが無くなるから不幸と感じるのだろう。
ただ、常に心の中には一つの問いかけが残っていた。
母さんは、僕を愛していてくれたのだろうか。
『そぉーらくーーん!!!』
ドカッ!
スピーチが終わり、会場を出てロビーへ向かい、歩いていたところ、後ろから筋肉質な腕で首を締め付けられた。
『ったく、だれ
おお!ハタじゃん!山下も!』
勢いよく腕を解き、後ろを振り返ると高校の部活仲間がいた。
ビッタビタサイズのリクルートスーツを着た畠山がニヤニヤしながらこっちを見ている。
身長180cm体重90kgの巨体でありながら、100m走が12秒台という運動神経抜群というのだから、世の中見た目で判断してはいけないと強く感じた4年前を思い出す。
『うぃ!そら!元気してたか?』
『当たり前でしょ!ハタ達も元気そうだね!』
『いつも通りだ!元気じゃない方がレアって感じよ笑』
小柄な山下は屈託の無い笑顔で応じる。
山下は常に笑顔の絶えない男だった。
秀才で運動神経も良く、男女問わず人気だった。
決してイケメンという部類ではないが、彼を嫌っている人は聞いたことがないほど、みんなから愛された存在であった。
『そうだ!そら!この後、太田達も含めて飲み会やるけど来ない?』
特に予定はない。
正直、懐かしいメンバーと会うのは楽しいだろうし、こんな機会はそうそうないことだと知っている。
ただ、
母に会いたい。
20年間温めてきた想いを口に出したことで、
エネルギーを使い果たしてしまった。
なぜ会いたいのか。なぜこのタイミングなのか。
言葉で表現するのは難しいが、今しかなかない。そう直感した。
それを父にどう伝えようか。
悩みとは別の想いを抱えながら、
父に届けた。
悩んだ末に泣きながら伝えた
届ける想いが強すぎたから、支離滅裂な部分も多かったことだろう。
理由として成立していないこともたくさんあっだだろう。
ただ父は、真っ直ぐ目を見て受け取ってくれた。
そして、
『分かった。』と一言呟いた。
鼻水と涙が合わさって、グチャグチャの顔が、さらにその一言で激しさを増した。
酸欠で頭がフラフラする。
やっと母さんに会える。
20年間求めていた母に会える。
嬉しさが爆発した
と同時にとてつもない不安や戸惑いが襲った。
母さん、僕を愛していてくれた?