neichan’s blog

ネイマといいます。日本人です。

ステレオ

 

 

刺されるような寒さとぬるさを繰り返し、いつの間にか訪れる4月。

北海道の4月は春という言葉は似合わない。

桜が咲くわけでも無いし、上着が不要な時期でもない。

強いて言えば、雪が溶けて自転車に乗れるようになるくらいだ。

そもそも、4月1日に学校が始まらない。

だけど社会人は別だ。入社式はある。

だからワクワクやドキドキよりも、焦りが滲む季節なのだ。

 


入社式2年目の自分にも特段変化はない。

『お疲れ様です。』『宜しくお願い申し上げます。』『ご確認の上、ご査収下さい。』このような上辺の言葉と、ショートカットキーを少し覚えたくらいだ。

 


社会人になれば大変なことが多いと子供の頃から刷り込みのように教えられてきたが、

実際学生時代の方が大変だった。

 


社会人は容姿は全く関係ない。

ただ、変な発言はせずに、仕事さえできればそれで必要として貰える。

それに比べ、子供は大変だ。

人気なのは常に面白いやつ。

勉強ができるから人気者でもない。

スポーツができるから人気なのではない。

頭もたいして良くなく、それなりにスポーツができ、おしゃべりで、先生にたまにタメ口をきくような奴がスクールカーストにおいて、頂点に立てる。

それは女子も然りだ。

特段可愛くなく、男に誘われたら何がなんでもいくような暇の極み女子が一番モテる。

 


それだけならまだいいが、

頭がいいブスは嫌われて、美女すぎると嫉妬の対象となる。

勉強というのは、すぐに成果が出るものではない。

もちろんできやすい人とできにくい人がいる。それが人間だ。誰にでも得意、不得意はある。

また環境にも依存する。

しかし、遊んでばっかいる奴が、その時間を勉強にあてて成果を出した奴をバカにする行為は、まさに馬鹿である。

弱さゆえの虚勢であるが、そんな奴のせいで有能な人間が堕ちていく姿を見るたびに、世の中の不条理さを感じる。

 


その上仕事は素直だ。

やった努力に比例はしないが、少しずつ何かに近づく。

だからこそ仕事は好きだ。

そんなことを考えながら、

俺は会社まで徒歩7分の道を歩く。

家から出て、左に曲がり、2本目の信号を右に進み、3個目の信号を渡った先にある。

その道のりを『退職届』と書かれた封筒を持ちながら進む。

 

 

 

 

 

 

『部長、おはようございます!』

 

 

 

会社に着いたら、まず最初に上司に挨拶するのが、この会社のルールだ。

「めんどくさい。」や「運動部みたい」など、噂では聞くが、自分はこの制度だけは間違っていないと思う。

結局、人は人だ。

相手がいてこそ成り立つ。

相手にいかに気に入られるか。

それこそが重要なのだ。

 


容姿や言動、振る舞いなどは相手によって変える必要があるし、なりより磨くことが難しい。

その点、挨拶はただ大きく、相手を見て、『おはようございます。』と言った後に、腰を30°くらいに曲げれば良い。

 


元テニス部の自分としては、サーブに似ていると感じる。

ラリーの場合、相手の球筋やコースなど考えることが多い。

しかしサーブは唯一自分で投げて、自分で打てる。自分で管理できる分、楽なのだ。

 

 

 

『部長、本日19:00より面談を設定していただけませんか。』

 


部長はパソコンから目を離し、振り返って自分を睨み、

『今やろう』といって、会議室へ向かった。

 

 

 

下座に自分が座ると同時に

『何があった。』

と全てを察したように言葉を吐く。

 


自分は内ポケットから封筒を引き上げ、机に置いた。

 


『会社辞めます。』

辞めたいでも辞めようと考えておりますでもなく、辞めますと決意と結果として放った。

 

 

 

部屋の重力が一枚の封筒に集まったあと、

『何があった。』

と先程よりも深い口調で部長が言った。

 


『特に何もありません。ただ辞めたいんです。』

 


そう。本当に理由はないのだ。

強いて言えば、目の前にリンゴと桃があり、

今までは、りんごが旨いと思い、リンゴを食べ続けてきたが、なんとなく桃も美味しいのではないか。という気がしてきたくらいだ。

 


『理由がないなら、辞める必要はないだろ。

隠さないで、しっかり話してほしい。』

 


そう。そうなのだ。

普通、人は自分の考えの会社の考えが合わず辞めていく。

 


だから、彼らの思いと不満を解消すれば残ってくれる。

部長はまだ若い方だが、多くの人の相談を受けて、最良の方法を身につけたのだろう。

 


しかし自分は違う。

ただ辞めたいという気持ちだけがあり、会社への不満も個人的な想いも特にない。

だが、会社へ不満を持つ人よりも意思は強いという一番厄介なタイプなのだ。

 


続く